自己破産では『詐害行為』という言葉をよく耳にします。
詐害行為とは、自己破産前に破産者が自分の財産を減らす行為のこと。自己破産では、財産の大部分を失う事になりますので、それを防ぐために故意に財産を減らそうとするケースが少なくないのです。
今回は、詐害行為の要件はどういったものなのか?また、時効(どれぐらい前の行為ならOKなのか)の成立はいつなのか?など詐害行為について詳しく解説します。
詐害行為って普段耳にする機会がない言葉だけど、要は、自己破産前に財産を減らす行為全般のことなんだね?
基本的にはそういう事になるね。例えば、現金や車や有価証券、家などを自己破産前に譲る行為などはNGだね。それをすると、資産が減るから債権者に分配されるお金が減ってしまう。自己破産は借金を無くすのが目的だけど、そのためには残りの財産を債権者に分配する必要がある。この分配される資産を減らす行為は詐害行為とされるんだ。
ん…、ってことは売るのは問題にならないの?家や車を売っても資産が減るわけではないよね?現金に変わるだけだし。
適正価格で売るのなら問題にならない可能性が高いかな。
現金にかえて一部の債権者だけに優先して返済をすると偏頗弁済の問題もでてくるけど。適正価格で売る事自体は財産を減らして債権者に損害を与える行為ではないからね。といっても、適正価格がいくらなのか判断がやや難しい。
あと、家を身内に売るといった行為は注意が必要で適正価格でも詐害行為とされてしまうかもしれない。
そもそも詐害行為とは?
自己破産では、自由財産とされる手元に残す事が認められる財産以外は全て処分の対象となります。
家や土地などに関しては、自由財産の対象になることがありませんのでいずれにしても競売・任意売却の対象です。
こういったいずれにしても財産を失う事になる破産者の立場では、
- 自己破産前に他の人に安く譲ろう
- 離婚にみせかけて妻に財産を譲ろう
- 無償で譲っても一緒だし知人に譲ろう
といった行為をしてしまいがちです。
しかし、自己破産では借金を全て無くすという大きな目的を果たすために、財産を極限まで換価処分され、そこで得られたお金が債権者に分配されることになります。
そのため、自己破産前に財産を減らす行為をすると、本来、債権者が受け取るべきお金が減ってしまうのです。
自己破産前に財産を減らし、債権者に損害を与える行為は詐害行為になる可能性が高いと考えて下さい。
中には、一旦は安く譲っておいて、自己破産が終了してから買い戻し、もしくは残りのお金を受け取るといった悪質なケースも考えられるでしょう。
ただでさえ損をしてしまう債権者がより不利な状況にならないように、こういった行為は厳密に判断される事になります。
ちなみに、詐害行為を主にジャッジするのは管財人です。財産があり管財事件とされる場合には管財人が選任され、財産を徹底的に調査されますが、管財人の大きな目的は債権者の財産を確保する事となりますので、詐害行為に該当しないか徹底して調査をします。
郵便物なども当分の間は管財人の所属する法律事務所に届くことになり隠し財産がないかなど細かく確認がされます。
具体的にどういった行為・要件が詐害行為に該当するのか?時効は?
詐害行為に該当する要件は大きく分けて3つのパターンがあります。
一つ一つ確認してみましょう。
自己破産前に財産を無償で譲渡した場合
価値のある財産を無償で譲渡するのは、対価を受け取る事なく財産を減らす最も典型的な詐害行為となります。
価値があれば譲る財産の内容は問われません。土地や家や車などはもちろんのこと、有価証券や現金、返戻金のある保険などもすべて自己破産前に譲る事が認められない事になっています。
これらの行為が債権者に損害を与える事は理解できますね。詐害行為とされるのは仕方のないことです。
では、どの範囲の期間で譲渡をすると問題となってしまうのか?
これに関しては、決められた期間がありません。たとえ、5年前、8年前といった過去の話であっても詐害行為と判断された場合には否認され、その行為が無かった事にされてしまいます。
しかし、何が何でも財産を減らす行為が詐害行為とされるわけではなく、一定の条件を満たす必要もあります。
詐害行為が成立するには、
- 破産者が、債権者に損害(迷惑)を与えることを分かっていてやったのか
- 譲渡された側が破産者が既に借金苦で破産前という事を知っていたのか
これらの2つが揃う必要があります。
そもそも詐害の『詐』が詐欺という言葉に使われる通り、相手を騙す事を指します。つまり、悪意をもって害を与える行為ということです。こういった意識を詐害意識と言います。
まず、第一に、破産者に詐害意識があったかどうかが重視されるという事です。
次に重要なのが、譲渡された側が破産者が既に借金で苦しんで破産する事を把握していたかどうか。
こちらは意外に感じるかもしれませんが、詐害行為の成立には譲渡された側の状況も問われるのです。これを受益者の悪意と言います。
しかし、これらの双方の意識を破産5年前や10年前に持っている事は通常、考えられないはずです。せいぜい借金苦で破産寸前だったとしてもそれが把握できるのは数年前ほどでしょう。それ以上前から破産寸前の状態が続くという事は現実的ではありません。
こういった事情から、数年以内の譲渡であり、尚且つ、双方が破産する事を把握している状況が揃うと詐害行為とされる可能性が高まります。
また、親族など身近な人に譲渡する場合には裁判所や管財人の判断が厳しくなる可能性が高くなります。
このケースでは、自己破産前なのに「借金で苦しんでいるなんて知らなかった」というのは無理があり、知っていたものと判断される可能性が考えられるのです。
そして、無償譲渡の場合にはさらにもう一点、注意しなくてはなりません。
それは、破産者が支払不可となる半年以内の無償譲渡。こちらに関しては例外で『詐害意識』『受益者の悪意』に関係なく、管財人の判断で否認可能と破産法で定められています。
通常、支払不可となる半年以内には、自己破産も視野に入っている段階となりますので、詐害意識うんぬん以前の問題となりますし、そもそも自己破産では債権者も守られるべきですので、半年以内でそれも無償という場合には問答無用で否認できる仕組みとなっているのです。
実際の価値より安い価格で売却した場合
先ほどは無償譲渡で明らかにNGとされる要素がありましたが、売却した場合でもその価格が本来の価格より安い場合には詐害行為の対象となる可能性があります。
本来であれば債権者は100万円分の返済を受けられたわけですから、50万円分の損害を受ける事に。
このケースでは無償譲渡と異なり、半年以内だからといって、問答無用で否認される事はありません。
しかし、それ以外のルールは無償譲渡の場合と同じで、時効というのは特になく、過去に遡って否認が可能となります。※実際には遡っても数年程度
破産者の『詐害意識』、売ってもらう側の『受益者の悪意』も必要で、この2つが揃った時に初めて詐害行為が成立します。この状況を原則型と言います。
ちなみに、身内へ安く売却する場合には受益者の悪意の確認をせずに詐害行為が成立する場合もあります。これも無償譲渡と状況は変わりません。
適正価格で売った場合も注意が必要
100万円の価値がある車を100万円で売るのは、財産を減らす行為ではないので、詐害行為とはなりません。
かつては、自己破産前には適正価格であっても財産を売却する行為はNGとされていました。現金にすると隠しやすいなど、破産者側の都合にいい部分が多かったのがその理由です。
しかし、その一方で、資金繰りに困った時に財産を売って返済に充てるという行為はごくごく普通のこと。それを詐害行為とするのは、「足掻かずに自己破産をしろ」と言っているのと同じことです。本来、自己破産せずに済んだ人も自己破産する事になるかもしれません。
こういった事情もあり法改正により、適正価格の売却であれば基本的には認められる事になりました。
しかし、これはあくまでも借金を返済する適切な行動だった場合の話。
- 財産を現金化した際に隠匿や消費する意思があった
- 尚且つ、購入者側もその事を知っていた
これらの条件が揃っていた場合には、詐害行為が成立し否認できると決められています。
適正価格で売却する行為は借金で困っている人にはごく普通の行為のため基本的に認められますが、場合によっては詐害行為の対象となるということです。
詐害行為で自己破産に失敗することも
ここまでは、詐害行為となり否認される可能性について解説してきましたが、否認とは、管財人が判断することで、その行為を取り消す事を指します。自己破産自体が失敗するという事ではありません。
しかし、詐害行為は免責不許可事由となる事もありますので、裁判官の判断により免責が不許可となる事もあり、その場合には自己破産に失敗して全ての借金が残る事態になってしまいます。
① 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
一見、詐害行為を指す条文のようにも思えますが、ややニュアンスが異なります。
詐害行為では、債権者を害する事を知っていながら財産を減らすことがNGとされましたが、免責不許可事由では債権者を害する目的で財産を減らす事がNGと定められています。
つまり、より積極的な姿勢で『あいつら(債権者)には返済したくないから財産を減らしてやろう』といった状況。
とはいっても明確な線引はできません。「どうせ財産がなくなるなら親族に譲りたい」といった意味合いでもある意味、積極的に債権者を害する行為をしているとされる可能性は考えられます。
その点は、裁判官の判断によるところが大きいでしょう。
ちなみに、免責不許可事由とされても裁判官の裁量によって裁量免責とされるケースも少なくありません。実際に免責が不許可になる可能性はごく僅かで基本的には免責が認められる方針となっています。
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