自己破産では偏頗弁済が認められません。
偏頗弁済とは偏った返済のことですが、全ての債権者が強制的に免責になるという自己破産の効力から一部の債権者に優先した返済をする事が認められないのです。
弁護士に依頼して受任通知が債権者に届いて以降、または自己破産の申立をした後は厳密な判断がされますし、自己破産を弁護士に依頼する前の返済であっても管財人に否認権行使をされる可能性があり、免責不許可事由でもありますので、最悪の場合、自己破産が認められない事態となってしまいます。
しかし、今回のテーマである税金類に関してはやや事情が異なります。税金類の『租税等の請求権』は非免責債権とされており、そもそも免責の対象とはなりません。
また、一般債権より優先的に返済する事も認められており、自己破産直前に一気に支払ったとしてもその行為は有効。
いずれにしても、一定額以上のお金は換価処分され手元に残りませんので、事前に税金類の支払いを済ませておいた方がいいでしょう。
自己破産は勝手に返済すると問題になるイメージが強いけど、税金類はむしろ支払っておいた方が良さそうだね。
そうなるね。租税等の請求権に関しては一般の債務とは異なる扱いになっていて、偏頗弁済になる心配がないんだ。
他の債権者には酷かもしれないけど『税金類の支払いなら仕方がない』と優先的な支払いを認めるしかない。
ちなみに税金滞納で差し押さえになっている場合はどうなるの?自己破産になった場合は…
既に差し押さえになっている場合でも、自己破産の効力は租税等の請求権に影響を与えないからそのまま有効になるよ。自己破産を開始したから安心という状況にはならない。いずれにしても支払いが必要なお金だからね。
そういった点も含めて優先した返済が重要になってくるかな。
自己破産の影響を受けない非免責債権とは
こちらの記事でも詳しく解説していますが、自己破産では一般的な私債権が全て免責になる効力があるものの、一部の債権にはその効力が一切ありません。
それが非免責債権と呼ばれるものです。
具体的には以下の7つの項目
- 租税等の請求権
- 破産者が悪意で与えた損害賠償請求権
- 破産者の故意または重大な過失で与えた生命を害する行為に関する損害賠償請求権
- 家族間で必要なお金
- 雇用関係で支払う必要がある人件費
- 破産者名簿に故意に記載しなかった
- 罰金等の請求権
これらに関しては、
破産法253条1項
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権についてその責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
破産法253条によって非免責債権と決められています。
※租税等の請求権以外にも気になる非免責債権がある場合はこちらの記事を確認して下さい
租税等の請求権とは具体的に何が該当する?
租税等の請求権とはいわゆる国税もしくは、それと同じ請求権をもつものを指します。
破産法97条
“国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権”
まず、国税は、
- 贈与税
- 所得税
- 相続税
これらが該当し、非免責債権となります。
次に、地方税に関しても国税徴収の例によって徴収する事が可能となるので非免責債権とされます。
- 事業税
- 市町民税
- 固定資産税
- 自動車税
代表的なものとしてはこういった税類があります。
基本的な考え方は『税』に該当するもの全てとなります。
また、それ以外にも、
- 国民年金
- 国民健康保険
これらに関しても国税徴収の例によって徴収できる請求権に該当するため非免責債権となっています。
次にやや意外なものとして下水道使用料に関しても租税等の請求権に該当するとされ免責とはなりません。
普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。
こちらが下水道使用料が租税等の請求権に該当するとされる条文。
そのため、下水道使用料は自己破産で免責が認められずその後も請求される事になります。
非免責債権の支払いは偏頗弁済とされない
自己破産を利用する場合、自己破産を弁護士に依頼してから、自己破産の申立をしてから、これらはもちろんのこと、自己破産直前に特定の債権者に優先して返済する行為もNGとされます。
理由は、債権者の意思に関係なく自己破産の効力が有効になるから。全ての債権者が平等に免責の影響を受けるのに、破産者の都合で一部の債権者だけ優遇する行為は他の債権者にあまりにも理不尽な状況となってしまうため認められないのです。
よく有りがちなのは、自己破産後の人間関係などを考慮して、知人など個人間の借金のみを優先して支払ってしまうというもの。
自己破産では個人間の借金も免責の対象となるため、これも偏頗弁済に該当します。
もし、こういった行為をした場合は、管財人によって否認権行使をされ、その行為自体なかった事にされるか、最悪の場合、偏頗弁済が免責不許可事由に該当するため免責が認められず全ての借金が残ってしまうかもしれません。
一方、非免責債権とされる租税等の請求権に関しては、偏頗弁済の問題は一切関係ありません。
『本当に優先的に返済して問題ないのか?』という事が曖昧な結論になっているサイトも見かけますが、租税等の請求権のある税金等を優先的に返済しても偏頗弁済に該当しないという事は破産法163条にもしっかり明記されており問題になる事はないと考えていいでしょう。
破産法163条
偏頗弁済は、破産者が租税等の請求権または罰金等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与または債務の消滅に関する行為には適用しない
ちなみに、これは自己破産をする直前だけでなく、受任通知を送ってから破産開始までの通常の返済を一切禁止される期間でも租税等の請求権に該当するものは支払う事が認められています。
租税等の請求権が優遇される理由
そもそも、租税等の請求権は一般債権より優遇される『優先的破産債権』か『財団債権』に該当し、配当という話しになっても最も優先される扱いです。
そのため、基本的には優先的に支払っても他の債権に影響を与える事がありません。
また、自力執行権を持っているため他の私債権とは異なり裁判を起こす事なく給料等の差し押さえが可能となります。
この強力な徴収権限は、自己破産を開始しても有効ですので、自己破産開始後に差し押さえをされてしまうかもしれません。
納税と借金は別問題と考え、自己破産に関係なく早めの支払いが重要になってくるでしょう。
会社や家族が立て替えて税金類を支払った場合
- 休職して会社が税金の支払いを立て替える
- 家族や知人を頼って立て替えて税金の支払いをしてもらう
こういった状況では、納税は既に済んでおり、立て替えてもらった分を会社や家族に支払う事になりますが、これらは租税等の請求権には該当せず偏頗弁済となるので注意が必要です。
租税等の請求権に該当するのはあくまでも租税等を支払う時のみで、立て替えてもらった場合には直接租税等の支払いをするわけではないので、優先的な支払いが認められなくなってしまいます。
理由は、いずれも債権者が会社や家族になってしまうからです。この状況では一般の私債権と同じものとして扱われます。
自己破産では債権者名簿を作成して提出する必要がありますが、その一覧に立て替えてもらった会社や知人を記載しなくてはなりません。
まとめ
以上のように、立て替えをしてもらった場合には注意が必要ですが、基本的には租税等の請求権に該当するものは全て非免責債権となり、優先的な返済をしても問題になることはありません。
これらの支払いは滞納すると裁判などをせず、いきなり差し押さえをされる事になりますので早めの支払いを心がけましょう。
また、どうしても返済が難しい場合には役所などに相談してみて下さい。無い袖は振れないのは仕方のないことですし分割等に応じてもらえる事もあります。
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